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フッ素を高密度に含む! “親水性”炭素ナノ粒子合成法の開発に成功 ~燃料電池?19F MRI造影剤等への応用に期待~

プレスリリースはこちら

この研究発表は下記のメディアで紹介されました。<(夕)は夕刊 ※はWeb版>
◆9/12 化学工業日報

 理学研究科 八ッ橋 知幸(やつはし ともゆき)教授、理学研究科前期博士課程2年生 岡本 拓也(おかもと たくや)、前期博士課程修了生 濵口 智行(はまぐち ともゆき)の研究チームは、工学研究科 松川 公洋(まつかわ きみひろ)客員教授?、大阪市立工業研究所の御田村 紘志(みたむら こうじ)博士との共同研究により、フッ素を高密度に含み、かつ水に親和性のある炭素ナノ粒子の簡便な合成法の開発に成功しました。
 本研究の成果は、平成28年9月6日(火)、物理化学専門誌 ChemPhysChemにオンライン掲載されました。

??工学研究科 松川 公洋客員教授は本共同研究時、大阪市立工業研究所に所属していました。

【雑 誌 名】
 ChemPhysChem

【論 文 名】
 Synthesis of Fluorine-Doped Hydrophilic Carbon Nanoparticles from Hexafluorobenzene by Femtosecond Laser Pulses
「フェムト秒レーザーによる親水性フッ化炭素ナノ粒子の合成」
 ※ フェムト秒 = 10?15 秒

【 著 者 】
 Takuya Okamoto, Koji Mitamura, Tomoyuki Hamaguchi, Kimihiro Matsukawa, and Tomoyuki Yatsuhashi

【掲載URL】
 http://dx.doi.org/10.1002/cphc.201600602

研究の背景

160908-1.png 酸素と水素の反応によって発電する燃料電池は、水以外を排出しないクリーンエネルギー源として注目されています。燃料電池の普及には、耐久性に優れ、再生利用が可能であり、酸素を効率よく還元する触媒が必要です。現在、希少金属である白金が触媒に用いられていますが、これに代るものとして、ヘテロ原子(窒素、ホウ素、リンなど)を組み込んだ炭素材料が有望視されています。
 2013年には、フッ素を含む触媒が白金触媒に匹敵する性能を示すことが報告されました。この触媒は高温(1000℃)での焼成によって得られました(図1a)※1。また、放電により5%までのフッ素を含む触媒も2015年に報告されています(図1b)※2。しかし、フッ素原子をさらに高い密度で炭素材料に導入するためには、取扱いが困難な毒物(フッ化水素酸)や極めて反応性が高いガス(フッ素)を用いる必要があります。
 そこで、私たちの研究チームは、フッ素をより高い密度で組み込んだ炭素材料を、レーザーを用いて簡便に生成する手法の開発に取り組みました(図1c)。
※1 DOI: 10.1021/cs400374k
※2 DOI: 10.1039/c5ta00244c

研究の内容

 今回、有機溶媒(ヘキサフロロベンゼン)にフェムト秒レーザー※3を照射することで、フッ素原子を含んだ炭素ナノ粒子(約50nm)を極めて簡便に合成することに成功しました。
160908-2.png 通常のフッ素導入法とは異なり、本手法では加熱の必要がなく室温で実施可能です。また、反応溶液を不活性ガスで保護するなどの特別な処置は不要であり、空気が存在しても反応が起こります。さらに、水が過剰に存在する条件でも粒子が生成されます。
このフッ化炭素ナノ粒子を分析したところ、表面におけるフッ素/炭素比が40%に達していることが分かりました。また、従来のフッ素導入法では素材の内部にフッ素を十分に導入することは困難ですが、今回合成した粒子全体のフッ素/炭素比は30%と高い値を実現できました。
 さらに特筆すべき特徴として、今回合成した粒子が長期間にわたって水に安定した状態で分散する※4ことが挙げられます(図2上)。この粒子は水を多く含む細胞や生体などになじみやすいことが期待されますので、医療等の分野でさまざまな用途が考えられます。

※3 フェムト秒レーザー???本研究で用いたものは40フェムト(百兆分の4)秒だけ発光できるパルスレーザー。

※4 通常、フッ素を多く含む材料(ポリテトラフルオロエチレンなど)は撥水性を示します。我々は、この粒子の水に分散する原因が半イオン性とよばれるフッ素-炭素結合の性質にあることを明らかにしました。半イオン性結合に係るフッ素原子の電荷は負、炭素原子の電荷は正に偏っています。そのため、粒子上のフッ素原子が極性分子である水を水素結合により引きつけることで粒子が水に分散できます。さらに、この粒子の粒径が小さい(約50nm、図2下)ことも水に分散する要因と考えられます。

期待される効果

 今回の発見は、今後の燃料電池開発に際して貴金属を含まない高効率酸素還元触媒の実現のための設計?開発に大きく寄与すると考えられます。また、フッ素を高密度に含み、かつ水に分散する粒子の特性を活かし、医学(19F MRI造影剤等)分野等への応用も期待できます。

本研究について

本研究は下記の資金援助を得て実施いたしました。
 ◆科学研究費補助金 新学術領域研究「高次複合光応答」(JP26107002)
 ◆科学研究費補助金 基盤研究(S)(JP24227002)
 ◆科学研究費補助金 挑戦的萌芽研究(JP26620014)
 ◆科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 さきがけ