「食べよう、いや、やめよう」 その判断は無意識のうちに脳が操っている?
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この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
◆2/22 大学ジャーナルオンライン
◆2/23 一般社団法人 日本生活習慣予防協会
◆2/23 糖尿病ネットワーク
◆4/18?? academistJournal
本研究のポイント
?「食べ物だ!」と脳は本人が意識する前に分かっている!
?本人が自覚していない間に食べ物が目に入ったときに生じる脳活動の程度は、 日常生活で「どれだけ食べることを我慢しているか」の程度と関連している
概要
大阪市立大学医学研究科 運動生体医学の高田勝子(たかだ かつこ)大学院生、石井聡(いしい あきら)病院講師、吉川貴仁(よしかわ たかひろ)教授らのグループは、無意識下で食品画像を提示するだけでも交感神経系が興奮すると同時に、複数の脳部位に活動の変化がみられることを明らかにしました。さらに、この脳の活動変化は交感神経の興奮の程度や、食に対して日頃から自制(我慢)をする程度と関連することが分かりました。 本研究では、ヒトの食生活においてこのような脳神経の仕組みが食行動に関する判断や意思決定を無意識下で操っている可能性を示唆しています。無意識下の認知過程の仕組みを解明することは、特に偏った食行動などの現代人にみられる生活習慣のゆがみを改善し、肥満や過体重、高齢者の食欲不振などの健康問題を解決する上で重要であると思われます。
本研究成果は、国際学術誌Scientific Reportsのオンライン版に、2月15日(木)19時(日本時間)に掲載されました。
掲載誌情報
【雑誌名】Scientific Reports
【論文名】Neural activity induced by visual food stimuli presented out of awareness: a preliminary magnetoencephalography study
【著 者】Takada K, Ishii A, Matsuo T, Nakamura C, Uji M, Yoshikawa T.
【掲載URL】www.nature.com/articles/s41598-018-21383-0
研究の背景
私たちは生活のさまざまな場面で、度々自覚なく行動の意思決定を行っているといわれています。例えば、食品を目にしたとき、『食べようか、いや、やめようか』と意識して考えているようで、実は無意識のうちに意思決定がなされており、そういった『何気ない』行動の連続が生活習慣となっています。しかしながら、本人の意識とは関係のないところで、どのようにヒトの脳が判断や意思決定を操っているのかは十分に解明されていないのが現状です。
このような無意識下における認知過程の仕組みを明らかにすることは、特に食行動といった現代人にみられる生活習慣の改善の糸口となり、肥満や過体重、高齢者の食欲不振などの健康問題を解決する上で重要です。そこで私たちは、本人が自覚しないうちに、食品の写真を提示したときに生じる自律神経や脳神経の活動と日常の食行動との関係を検証しました。
研究の内容
方法
健康な成人男性20名を対象に、無意識下で食品画像を提示したときの脳神経および自律神経の活動を解析しました。5分間閉眼で過ごした後に、無意識下の瞬時の画像提示を10分間繰り返し、その後5分間、閉眼で過ごしてもらいます。画像提示とはさまざまな食品の画像を提示する『食品課題』とその食品画像から作成したモザイク画像を提示する『対照課題』の2課題を指し、画像提示順序は被験者ごとにランダムに設定しました。
本研究で実施した無意識下の瞬時の画像提示では、被験者に食品やモザイク画像が提示されたことを気づかせないように、瞬時(0.0167秒)に食品あるいはモザイク画像を提示した直後にマスク画像(風景写真)を2秒間提示しました。
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自律神経活動の変化を調べるために課題前後の閉眼各5分間の心電図を記録し、心拍間隔の周期的変動(心拍変動)の周波数解析を行うとともに、画像が提示されるごとに引き起こされた脳神経活動を脳磁図法※1により計測しました。(食品やモザイク画像に気づいてしまった例、脳磁図や心電図のデータ不良例を除き、最終的に14名の脳磁図データと13名の心電図データを解析)
※1 脳磁図法…大脳皮質ニューロンの神経電気活動に伴って生じた磁場を1/1,000秒単位の精度で記録できる優れた時間分解能と空間分解能を有する機器(脳磁図)を用いて脳神経活動を計測する方法。
結果
心拍変動の周波数解析の結果、食品画像提示後のLF/HF比※2は提示前の値と比較して増加(図1-A)していることから、食品画像提示後は提示前と比べて交感神経が活発に興奮するとわかりました。また、実験後に質問紙※3を基に調べた個々の日常生活における摂食の認知的自制(我慢)の程度と食品画像提示の前後に観察されたLF/HF比の関係性から、食品画像提示後に交感神経が興奮する人ほど、食べたいときに我慢できない傾向があることが示されました。つまり、食品画像提示後に交感神経が興奮しない人ほど、食べたいときに我慢できる傾向があります(図1-B)。
また、モザイク画像提示時と比較して食品画像提示時は、瞬時の画像提示のたびに活動に変化を生じる脳部位(下前頭回?島皮質)が見つかりました(図2)。特に、画像提示直後0.75~0.90秒の間では、行動抑制などに関与する右大脳半球の下前頭回の活動変化量とLF/HF比の増加量との間に負の相関が認められました(図3-A)。これは、食品画像提示後に交感神経が興奮する人ほど、下前頭回の活動が弱いことを指します。さらに、同時間帯(画像提示直後0.75~0.90秒)、摂食行動などに関与する右大脳半球の島皮質の活動が抑制される程度と、日常の摂食の認知的自制(我慢)の程度との間に正の相関が認められました(図3-B)。これは、島皮質の活動の抑制程度が低い人ほど、食べたいときに我慢できない傾向があることを意味します。つまり、島皮質の活動の抑制程度が高い人ほど、食べたいときに我慢できる傾向があります。
※2 LF/HF比…自律神経(交感神経と副交感神経)のバランスを表し、数値が高いほど交感神経が優位であることを指す。(LF…Low Frequency、HF…High Frequency)
※3 質問紙…Three-Factor Eating Questionnaire (Karlsson, J, 2000) Three-Factor Eating Questionnaire-R21 (Cappelleri, J. C, 2009)
本研究により明らかになったこと
本研究により、無意識下における食品画像提示により引き起こされる自律神経活動および脳神経の応答が日常の食行動に関わっている可能性が示されました。つまり、ヒトの食習慣において行われている『食べよう、いや、やめよう』という意志決定は、無意識のうちに働く脳の習性に左右されている可能性があります。
今後の展開
本研究は若年成人男性を対象に実施したので、中高年や高齢者、女性を対象とした幅広い層でも同じ結果が得られるかを検証していくことが今後の課題です。また、観察されたヒトの脳の無意識下における習性が、実生活における各ライフステージの食と健康にどのように影響するのかを検討していき、生活習慣病をはじめとした現代病の病態生理を明らかにしていく予定です。
参考データ
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