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アスタキサンチンがCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の改善に効果的であることを証明

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 大阪市立大学大学院医学研究科 呼吸器内科学の久保寛明(くぼ ひろあき)大学院生、浅井一久(あさい かずひさ)准教授、川口知哉(かわぐち ともや)教授らの研究グループは、抗酸化物質でカニ、エビなどの甲殻類や鮭に含まれるアスタキサンチンが COPD(慢性閉塞性肺疾患)の肺気腫の予防に効果的であることを明らかにしました。
 COPDは、日本では約500万人以上が罹患している病気です。COPDの主な原因はタバコ煙の吸入であり、タバコ煙によって肺胞が破壊され、肺気腫を形成します。COPDは進行すると咳や痰、息切れが生じ、在宅酸素療法1が必要になる患者さんもいます。COPDによる死亡者数は年々増加しており、全世界の死因第3位の疾患であると報告されています。
 現時点ではタバコ煙によって破壊された肺を元に戻す有効な治療法はなく、禁煙と気管支拡張薬等の対症治療が中心とされています。そこで浅井准教授らの研究グループは、喫煙曝露により肺気腫を発症するマウスにアスタキサンチンを投与したところ、肺組織における抗酸化能の上昇と肺気腫の抑制効果を認めました。アスタキサンチンに着目し、肺気腫の抑制効果を証明した研究は、本研究が初めてです。本研究は、アスタキサンチンが抗酸化作用により肺気腫予防効果を発揮することを実験的に明らかにしたもので、今後のCOPDの予防および治療確立に向けて重要な知見であるといえます。
 本研究成果は国際科学雑誌 『Marine drugs』に日本時間2019年11月28日にオンライン掲載されました。

1 自宅に酸素を供給する機械を設置して、室内空気より高い濃度の酸素を投与する
  こと。

【発表雑誌】Marine Drugs(IF=3.772)
【論 文 名】Astaxanthin suppresses cigarette smoke-induced emphysema
     through Nrf2 activation in mice
【著 者】Hiroaki Kubo, Kazuhisa Asai, Kazuya Kojima, Arata Sugitani,
     Yohkoh Kyomoto,Atsuko Okamoto, Kazuhiro Yamada, Naoki Ijiri,      Tetsuya Watanabe, Kazuto Hirata and Tomoya Kawaguchi
【掲載URL】https://www.mdpi.com/1660-3397/17/12/673

研究背景

? COPDは、タバコ煙などの有害ガスの長期吸入によって引き起こされます。タバコ煙には活性酸素種2などの有害物質が多く含まれており、活性酸素種の過剰による酸化ストレスはCOPDの病態において重要な役割を果たしています。一方、生体内ではNrf2 (Nuclear factor erythroid 2-related factor 2)という転写因子3を活性化させることにより、酸化ストレスに対する防御メカニズムを発動することが知られています。
 アスタキサンチンは、カニ、エビなど甲殻類や鮭に蓄積されている橙赤色の色素でリコピンやβ-カロテンと同じカロテノイドの一種です。抗酸化力はビタミンCの約6000倍、コエンザイムQ10の約800倍ともいわれており、強力な抗酸化物質です。最近の研究では、アスタキサンチンがNrf2を介して酸化ストレスから生体を保護することが解明されています。これらの報告に基づいて、アスタキサンチンが肺でのNrf2発現を高め、酸化ストレスを低減させ、タバコ煙による肺気腫を改善するのではないかと仮説をたてました。

?2  酸素分子に由来し、生体内においてDNA、脂質、蛋白質、酵素などの生体高分子
  と反応し、その結果、脂質過酸化、DNA変異、蛋白質の変性、酵素の失活をもた
  らす分子。
※3 ??DNAに特異的に結合するタンパク質の一群。

研究の内容

 本研究では、マウスに1 2週間の喫煙曝露を行い、餌へのアスタキサンチン添加の有無がCOPD病態へ及ぼす影響を検討しました。アスタキサンチン投与群では、肺組織においてNrf2と抗酸化タンパク質であるHO-1(Heme oxygenase-1)の発現が有意に増加しており【図1】、BALF(気管支肺胞洗浄液)中の炎症細胞数(マクロファージおよび好中球)が有意に減少し【図2】、肺気腫の程度を示す MLI(平均肺胞径:mean linear intercept)や肺胞の破壊の程度を示すDestructive indexの上昇を抑制しました【図3】。

図1?肺組織におけるNrf2と抗酸化タンパク質HO-1の発現

Nrf2タンパク発現量
Nrf2タンパク発現量
HO-1タンパク発現量
HO-1タンパク発現量

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図2 BALF(気管支肺胞洗浄液)中の炎症細胞
図2 BALF(気管支肺胞洗浄液)中の炎症細胞
図3 肺組織(MLI:肺気腫の程度、Destructive index:<br/>肺胞破壊の程度)
図3 肺組織(MLI:肺気腫の程度、Destructive index:
肺胞破壊の程度)

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期待される効果

 本研究において、アスタキサンチン投与により肺組織において抗酸化能が上昇し、肺気腫が予防されることが示されました。COPD患者においてもアスタキサンチンを摂取することで 肺気腫の進行を抑制できる可能性が明らかにされ、COPD治療戦略の新規候補物質として注目されます。

研究資金

 科研費基盤(C)(19K08660)の研究の一環です。
 本研究において、アスタキサンチンはFUJIFILM提供のFUJIFILMアスタキサンチン10Oを使用しています。