最小生物マイコプラズマの滑走運動を解明
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概 要
大阪市立大学理学研究科 宮田 真人(みやた まこと)教授らの研究チームは、大阪大学大学院 生命機能研究科の難波 啓一(なんば けいいち)教授らの研究チームと共同で、最小の細菌である「マイコプラズマ?モービレ」が、滑走する分子メカニズムの大筋を、世界で初めて明らかにしました。
本内容は2019年12月24日(米国東部時間)に、米国微生物学会オンライン誌であるmBioに掲載されました。(詳しい掲載情報は文末をご参照ください)
今回の発見
マイコプラズマは、菌体の片側に小さな突起“接着器官”を形成し、この突起で宿主組織の表面にはりつき、はりついたままに動く“滑走運動”を行います。そこにはATP※合成酵素から進化したと考えられる特殊な分子モーターが主な役割を果たしていることが示唆されていましたが、運動メカニズムの全体像は明らかになっていませんでした。今回、滑走運動の装置を部分的に単離してその構造と反応を調べ、全体像を明らかにしました。
※ミトコンドリア内で生成される、生体内のエネルギーの貯蔵?供給?運搬を仲介している重要な物質
研究の内容
本研究では、滑走の装置を単離し、凍結したままの滑走装置の電子顕微鏡像を数百の異なった角度から撮影しました。それらの像からCTスキャンと同じ方法で元の構造を再構築しました(右図)。その結果、滑走装置の内部構造とそれらが菌体表面の構造へとつながっていることが明らかになりました。
次にATP加水分解各段階における滑走装置の内部構造と、滑走の“あし”のその結合対象であるシアル酸オリゴ糖への結合を調べました。その結果、ATPの加水分解に伴いモーターの形が変化していること、それに伴って“あし”がシアル酸オリゴ糖をつかんだり離していることが明らかになりました。これらの事実を基に、滑走運動メカニズムの新しいモデルを提案しました。驚いたことにそのメカニズムは全く異なった構造を持つヒトの筋肉の収縮メカニズムとよく似たものでした。
今後の展開について
単離した滑走装置をさらに解体したものをクライオ電子顕微鏡で観察したり、目的のタンパク質を合成して結晶化を行うことで、滑走装置の構造を原子レベルで明らかにします。それと並行して、蛍光標識したタンパク質の動きや接着器官の構造変化を調べることで、どの部分が動いて滑走運動が起こっているかを調べます。滑走の構造とメカニズムを詳細に明らかにすることで、運動能の起源と動作原理に迫ることができ、ナノスケールのデバイスや医薬品を開発するための基盤になることが期待されます。
補足
■電子線クライオトモグラフィー
無染色、無固定の分子を液体エタンで瞬時に凍らせ、透過型クライオ電子顕微鏡で凍結試料を傾斜させ多方向から撮影を行い、病院で撮影されるCTと同じような原理の計算法でその三次元構造を再構成する手法。近年、カメラ性能の進歩により、ナノメートルレベルの高分解能の立体像が得られるようになっている。
<参考>
?動画 http://bunshi5.bio.nagoya-u.ac.jp/~mycmobile/video/detail.php?id=22
(マイコプラズマ?モービレの滑走の様子)
掲載情報
雑誌名:mBio
論文名:Refined mechanism of Mycoplasma mobile gliding based on structure, ATPase activity, and sialic acid binding of machinery
著者:Nishikawa MS, Nakane D, Toyonaga T, Kawamoto A, Kato T, Namba K, and Miyata M?
掲載URL:https://mbio.asm.org/content/10/6/e02846-19???
共同研究、資金等
本研究は、下記の計画研究の一部として行われました。
?科研費?新学術領域「運動超分子マシナリーが織りなす調和と多様性」(領域代表:宮田)
http://bunshi5.bio.nagoya-u.ac.jp/~mycmobile/index.php
?科研費?基盤研究(A)「病原細菌,Mollicutes綱における3種の運動メカニズム」
?CREST研究?「合成細菌JCVI syn3.0B とゲノム操作を用いた細胞進化モデルの構築」
(研究代表:宮田)
https://www.jst.go.jp/kisoken/crest/project/1111100/1111100_2019.html
?科研費?特別推進研究「クライオ電子顕微鏡による生体分子モーターの立体構造と機能の解明」(研究代表:難波啓一,大阪大学教授)
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